『タッチ』という物語を不朽の名作たらしめている、最大の悲劇。
それは、主人公の双子の弟・上杉和也の、あまりにも突然な死です。
しかし、全ての『タッチ』ファンが、一度は夢想したはずです。
「もし、あの事故がなかったら…」「もし、和也が生きていたら…」と。
その時、達也、和也、南、三人の運命はどうなっていたのでしょうか。
この記事では、全ファンが夢見たこの究極の「IFの物語」を、単なる願望ではなく、作中に散りばめられた伏線やキャラクターの性格に基づき、徹底的に考察・予想します。
なお、本作のベースとなった『タッチ』と『MIX』の物語全体の繋がりや関係性については、こちらの記事で網羅的に解説しています。
浅倉南はどちらを選んだのか?(究極の三角関係の結末)
物語最大のテーマである、三人の関係。
もし和也が生きていたら、この恋の行方はどうなっていたのでしょうか。
作中の伏線から、その結末を徹底考察します。
- 生前の南の気持ち(和也への想いと、達也への無自覚な恋心)
- 和也が抱えていた「兄へのコンプレックス」という重要伏線
- 結論:最終的に南が選んだのは、やはり…
生前の南の気持ち(和也への想いと、達也への無自覚な恋心)
生前の南は、周囲からも、そして自分自身でさえも、「和也のことが好き」だと信じていました。
真面目で、自分の夢のために努力する和也は、理想のパートナーに見えたからです。
しかし、物語の序盤から、彼女の無意識の行動は、常に達也に向いていました。
達也の何気ない一言に一喜一憂し、彼の奔放な行動を目で追い、そして誰よりも彼の本当の優しさを理解していました。
これは、彼女自身も気づいていない、達也への無自覚な恋心があったことの、何よりの証拠です。
和也が抱えていた「兄へのコンプレックス」という重要伏線
一方、完璧に見えた和也もまた、心の奥底で兄・達也に対して、強烈なコンプレックスを抱いていました。
彼は、南が本当に好きなのは、自分ではなく達也であることに、おそらく気づいていました。
彼が南に対して「アニキにも負けないよ」と宣言したのは、その不安の裏返しです。
もし彼が生きていれば、この三角関係は、和也にとって非常に苦しいものになっていたでしょう。
優しい彼のことですから、最終的には二人のために、自ら身を引くという選択をした可能性さえあります。
結論:最終的に南が選んだのは、やはり…
以上の伏線を基に結論を導き出すならば、たとえ和也が生きていたとしても、最終的に南が選んだのは、上杉達也だった可能性が極めて高いでしょう。
和也の死は、二人が自らの本当の気持ちに気づく「きっかけ」ではありましたが、「原因」ではありません。
もちろん、そこに至るまでには、原作以上に長く、そして切ない葛藤の物語が繰り広げられたはずです。
しかし、物語の本質的なテーマが「運命の二人」を描くものである以上、この結末は揺るがなかったと、私たちは考察します。
このIFの世界とは異なる、現実の物語を歩んだ主人公・上杉達也自身の魅力や能力については、こちらの記事でさらに詳しく解説しています。
甲子園での役割分担(最強の双子バッテリー誕生?)
二人の天才が共にグラウンドに立った時、明青学園はどのようなチームになったのでしょうか。
- エースは和也、4番は達也?最強チームの布陣
- 甲子園優勝は、より確実なものになったか
- 達也は投手にならなかったのか?
エースは和也、4番は達也?最強チームの布陣
もし和也が生きていれば、明青学園のエースは、間違いなく上杉和也だったでしょう。
彼の投手としての完成度は、高校一年生の時点ですでに全国レベルでした。
一方、達也は、その天性の野球センスとパワーを、打撃で発揮したはずです。
ポジションはサードか、あるいは外野か。そして打順は、不動の4番打者。
世代最強の「エース」と「4番」が同じチームに存在する、まさに夢のような布陣が完成していたでしょう。
甲子園優勝は、より確実なものになったか
エース・和也と4番・達也。
この二枚看板を擁する明青学園が、甲子園に出場し、そして優勝した可能性は、原作以上に高かったと言えるかもしれません。
原作の達也が、たった一人で奇跡的な逆転劇を演じたのとは違い、より安定した、盤石な強さで全国を制覇したでしょう。
しかし、そこには、原作が持っていたような、悲劇を乗り越えた末の、切ない感動は生まれなかったかもしれません。
達也は投手にならなかったのか?
達也が、完全に投手としての道を諦めたとは考えにくいです。
おそらく、和也が投げられない試合でリリーフとして登板し、剛速球で相手をねじ伏せる、最強の「抑え投手」として、甲子園を沸かせたのではないでしょうか。
「上杉兄弟、夢の継投」
それは、原作とは違う形で、高校野球史に残る伝説となっていたはずです。
上杉達也の野球人生はどう変わっていたか
和也の死によって、野球の道へ進んだ達也。
もしそのきっかけがなかったら、彼の人生はどうなっていたのでしょうか。
- 野球部には入部しなかった可能性
- 弟の「補欠」としての野球人生
- 最終的にプロ野球選手になれたのか?
野球部には入部しなかった可能性
もし、和也が順調にエースとして活躍し、南との関係も良好であったなら。
達也は、弟と南の邪魔をしないように、自ら身を引き、野球部には入部しなかった可能性も十分に考えられます。
ボクシング部でその才能を発揮したり、あるいは、全く別の道を歩んでいたかもしれません。
しかし、彼の心の奥底にある野球への情熱と、南への想いが、彼を完全にグラウンドから引き離すことはなかったでしょう。
弟の「補欠」としての野球人生
最もありえたかもしれないのが、このシナリオです。
エースである弟を支えるため、あるいは、ただ南のそばにいたいがために、達也は野球部に入部します。
しかし、彼は本気を出すことなく、あくまで弟の「補欠」として、飄々と練習をこなす日々を送っていたのではないでしょうか。
その才能の片鱗は、時折、練習試合などで見せるものの、最後まで彼は「天才」の仮面を被ることはなかったかもしれません。
最終的にプロ野球選手になれたのか?
このIFの物語で、最も難しいのがこの問いです。
和也が生きていれば、達也が原作のように、全てを懸けて野球に打ち込むことはなかったでしょう。
しかし、彼の天賦の才は、プロのスカウトが見逃すはずがありません。
高校卒業後、野球から離れようとした彼の元に、ある日突然、ドラフト指名の知らせが届く。
そんな、あだち充作品らしい、ドラマチックな展開が待っていたのかもしれません。
『タッチ』という物語の本質的なテーマ
この「IF」を考察することは、『タッチ』という作品が、本当に描きたかったテーマを浮り彫りにします。
- 和也の死は「最初から決まっていた」という事実
- 「欠落」を背負って成長する主人公の物語
和也の死は「最初から決まっていた」という事実
ファンにとっては衝撃的ですが、作者のあだち充先生と担当編集者の間では、和也の死は、連載開始当初から決まっていた既定路線でした。
つまり、『タッチ』という物語は、和也の死を前提として、全ての伏線と人間ドラマが構築されていたのです。
もし和也が生きていたら、それはもはや、私たちが知る『タッチ』とは、全く別の物語になっていたでしょう。
「欠落」を背負って成長する主人公の物語
和也の死は、達也と南の心に、決して埋めることのできない、大きな「欠落」を生み出しました。
しかし、『タッチ』という物語の本質は、二人がその「欠落」を、互いの存在によって埋め合い、共に成長していく姿を描くことにありました。
悲劇があったからこそ、二人の絆はより強く、そして美しく輝いたのです。
和也が生きていた世界の幸福とは、また違う種類の、切なくも、かけがえのない幸福の物語。
それこそが、『タッチ』が描きたかった、本当のテーマなのかもしれません。
まとめ
「もし、上杉和也が生きていたら」
それは、幸せな結末を夢見る、ファンの純粋な願いです。
しかし、そのIFを考察することで、私たちは、和也の死という悲劇が、いかに『タッチ』という物語を、深く、そして感動的なものにしたかを、改めて知ることができます。
和也が生きていた世界の『タッチ』は、きっと明るく、輝かしい青春漫画だったでしょう。
しかし、私たちが愛してやまない、あの切ない『タッチ』は、上杉和也という、あまりにも大きな犠牲の上に成り立っていたのです。

